2015年7月9日木曜日

価格変動リスク

このような経営は、継続的に利益をもたらす例外的な少数を除けば、プロたちを不安定な状態におき、会社への献身や忠誠心を失わせる。また例外的に利益を生むプレーヤーにしても、リスクを過剰にとりがちである。

たびたび繰り返すが、七五年の委託手数料自由化を契機とする規制緩和の推進、巨大な機関投資家の出現、国際化の進展などで、米国の証券業界の競争が激化し、その収益構造は大きく変わった。伝統的な株式や債券の引受や売りさばき業務、ブローカー業務などの収益性が低下してきたのである。

たとえば引受業務では、先でもふれたように、証券発行に関する一括登録制が導入され手続きが簡略化されたため、迅速な発行が可能となったが、反面、募集される全証券を買い取って自己の在庫とし、その後に販売するという買取発行制度を生んだ。流通市場でも、機関投資家との取引では、複雑・巨額な注文を迅速かつ的確に執行する能力が競争の鍵となってきた。

伝統的な引受業務は、このように、資本を喰い、価格変動リスクにさらされるようになったため、取引量は増えても、負担リスク調整後の収益性は低下してきていた。そのため、投資銀行は、伝統業務以外の新しい分野、すなわち自己勘定での証券売買や裁定取引、資産担保証券やデリバティブを組み込んだ新商品の開発と販売、新興国市場の開拓などで、新たな収益機会を追求せざるを得なくなった。

投資銀行には、いま一つ、企業の合併・買収業務という高収益をもたらす伝統的な業務があった。こちらは、助言先の顧客が買収資金調達のために被買収企業の資産や将来のキャッシュフローを担保とする借入を行ったり、ジャンク債の発行、資産の売却を行う際、時には単なる斡旋にとどまらず自己資金を投じてこのような取引に介入する、いわゆるマーチャントーバンキング業務も行う。こちらも高収益、ハイリスクの業務である。