2014年8月12日火曜日

金融危機への財政解決法

十年前、東アジア金融の危機は、タイに始まって東アジア全体に拡大し、インドネシアではスハルト独裁政権の退陣につながり、ロシアやブラジルなどの新興市場にも打撃を与えたことを思い出してほしい。あのときの国際通貨基金(IMF)に、どんな印象をお持ちだろうか。人によっては、印象をなんら持っていないかもしれない。というのは、主に頭文字だけで知られている国際組織は、精彩のない存在とみなされやすいからだ。あるいは、韓国やタイなど各地で、IMFを非難したプラカードを掲げた、大規模で派手なデモを思い出すかもしれない。

私はジャーナリズムに従事しているので、思い出すのは別のイメージだ。それは、険しい顔つきで、腕組みをしているフランス人の写真なのである。このフランス人は、一九八七年から二〇〇〇年にかけて、IMFの専務理事を務めたミシェルーカムドシュ氏だ。インドネシア政府は、財政赤字を削減し、緊縮財政を実行することを条件にIMFから巨額の融資を受けたが、腕組みをしている場面は、その協定を行った際の調印式である。

この写真は、後に世間から、IMFの帝国主義的やり方を示す、悪名高いシンボルとみなされるようになった。その一、二年後だったか、私は、ジャカルタのインドネシア高官の事務所に、一九九七年から九八年の事態がいかに深刻だったかを思い出させるために、この写真が掲げられているのを見た。それは、IMFが問題解決に乗り出すときは、常に痛みを伴うものであり、何よりも予算削減を求められることを思い出させるのだ。

現在、富める国に金融危機が拡大している。アメリカが中心だが、英仏両国や他の欧州連合諸国だけでなく、ある程度地球規模でも影響を及ぼしている。その時期にIMFの同じフランス人の首脳が、世間を再び驚かせたのである。二〇〇七年、IMFの新専務理事となったドミニクーストロスカーンは、金融危機に際して、政府の歳出削減を条件とする、旧来のIMFの手法を放棄したようだ。すなわち、彼は、二〇〇八年一月下旬、ダボスで開催された世界経済フォーラムの場で、続いて一月三十日付『フィナンシャルータイムズ』紙上で、金融危機に対処するため、財政赤字を拡大し、さらに財政政策上のあらゆる手段を講じて、経済成長を促進するよう各国政府に呼びかけたのである。

これは驚くべき発言ではなかったかもしれない。なぜなら、ストロスカーン氏は、社会党出身のフランス元財務相で、フランス社会党には、財政赤字はよい結果をもたらすと信じる人が多くいるからである。彼は過去において、緊縮財政の考えを持つとみなされていたが、最も驚かされたのは、その発言のタイミングである。アメリカは景気後退に陥り、世界的な経済停滞につながると多く予測されているが、今のところそれが起きたという確固たる証拠はない。たしかに米国の失業率は悪化しているが、現在、わずかなト昇にとどまっている。