2014年6月20日金曜日

グローバル公共哲学の大きな特色

また地球環境が脅かされ、人類の経済格差がますます広がり、国際犯罪も増加しているように思えます。このような事態に対処して、「人間の安全保障」(セン、緒方貞子)と呼ばれるような新しい包括的価値理念も登場してきました。こうした時代に対処するためには、一九世紀以降に顕著に展開されたような「ナショナルな公共哲学」では明らかに不十分です。たしかに、ナショナルな公共哲学は、植民地主義や帝国主義に抵抗する論理を展開したり、近代的立憲体制をつくるにあたって大きな役割を演じたりしました。その意義は、過小評価されるべきではないでしょう。しかし。それはまた、自国の外部の他者を敵と想定するような「閉ざされたナショナリズム」を幇助する危険性をつねにはらんでいます。

実際に、一九世紀後半から二〇世紀には、その危険が戦争となって発露しましたし、日本の場合は教育勅語や滅私奉公のイデオロギーが生まれました。今後の日本にも、さきで述べたように、過去の歴史に対する反省的な総括がなされない状態のまま。一国主義の閉ざされたナショナリズムへ向かう危険がないとはいえません。では、ナショナルな公共哲学から「グローバルな公共哲学」へ向かうべきでしょうか。それも危ういことのように思えます。なぜなら、そのことばは「イデオロギーとしてのグローバリズム」を連想させるからです。

現下の国際政治経済レベルでのグローバリズムは、アングロアメリカンースタンダードの支配を意味することが多く、「グローバルな公共哲学」では、そうしたスタンダードにもとづく公共哲学という響きを払拭できません。ひいては、「モノカルチュラルで均質な」
公共知が促進され、地球上の「諸地域の文化的・歴史的多様性」に関する公共知は、ないがしろにされてしまう恐れがあります。とはいえ他方、公共哲学は、人類が現在直面している諸問題に背を向けた「ローカリズム」や「文化的歴史的相対主義」に陥ることはできません。ローカリズムは局所的な事柄にのみとらわれた視野狭窄の思想です。文化的歴史的相対主義は、それぞれの文化ごとの価値理念が通約不可能で文化横断的な普遍性をもたないとする考えです。

これでは、ともに、地球的な公共善の創出を不可能にしてしまいます。それに対し、提唱するのは、諸地域の文化的歴史的多様性を顧慮しながら、また文化や歴史の多様なコンテクストに根ざしながら、同時に、平和、正義(公正)、人権、福祉、貧困、科学技術、環境、安全保障、文化財保護など、地球規模で対峙する必要のある問題を考えていく「グローカルな公共哲学」です。それは、ナショナルな公共哲学、グローバルな公共哲学、ローカルな公共哲学の限界を超える展望を呈示します。すなわち、一国史観や国民主義的文化論、均質な文化帝国主義や単線的進歩史観、文化的歴史的局地主義などの陥穿にはまることなく、「文化的歴史的多様性のなかで国家の枠組みを越えた人類の課題と取り組む」公共哲学として理解されなければなりません。

ここで、グローバルの言葉に含まれる「ローカル」という形容詞に秘められた意味を浮き彫りにしたいと思います。、いま手元にある英英辞典(『ロングマン現代アメリカ英語辞典』)をひくと、ローカルという形容詞が、「あなたが住む特定の場所や地域と結びついた」と定義されています。この定義をうけて、文化的歴史的に多様な負荷を帯びた「地域の」という意味と、各自が活動する「現場の」という二重の意味をローカルに付与することにしましょう。そのことで、それぞれの人間が生きる「地域性」と「現場性」を重視することを、グローバル公共哲学の大きな特色のひとつとしたいのです。

2014年6月6日金曜日

ほとんどの高血圧症は原因不明

なぜ高血圧症になるのかは、よく分かっていません。医学用語で本態性、特発性、原発性という病名がついているのは、原因がはっきりわかっていないという表現であり、大部分の高血圧症は原因がよくわかっていないので、本態性高血圧症と呼ばれています。本態性高血圧症が高血圧症の九五%以上を占めており、残りの五%弱は原因となる病気がはっきりしている高血圧症で、二次性高血圧症または症候性高血圧症と呼ばれています。

高血圧者の多い家系の存在は昔からよく知られています。また塩分のとりすぎ、肥満、運動不足、飲酒習慣なども血圧を上昇させやすい要因です。しかし、これらの要因がどの程度血圧の上昇に関与しているのかは明確ではなく、また一律ではありません。その意味では、高血圧症を独立の一つの病気と考えることには無理があります。その一例として、塩分を制限すると血圧の下がる人かいますが、下がらない人もいます。肥満者は一般に血圧が高いのですが、高くない人もいます。やせた人でも血圧の高い場合もあります。

したがって高血圧者の診療にあたってその人の血圧上昇にどの要因がどの程度関与しているかを判断するのは不可能です。高血圧症の発症に遺伝が関与していることは経験的にわかっています。親が血圧が高いと子供が高くなりやすいとか、脳卒中か多発している家系の人はその危険性が高い、などの報告か数多くあります。大まかな言い方をすれば、五〇%強か遺伝、残りの五〇%弱が環境要因で決まるとされています。

今から三〇年以上前に京都大学の岡本教授グループは血圧が高いラットを選択的に交配する実験を開始しました。一九六九年に十〇〇%高血圧になるラットを、一九七四年には一〇〇%脳卒中を起こすラットをつくるのに世界で初めて成功しました。この遺伝的に純系である高血圧ラットおよび脳卒中ラットの確立により、高血圧症および脳卒中の発症に遺伝子が関与していることが証明されました。この純系ラットにより、高血圧症や脳卒中を促進したり予防したりする要因を一つ一つ科学的に確認することが可能になりました。