このような考え方に対して、中央銀行の独立を守るためには、ドイツ、スイス流に通貨価値の番人に徹したほうがよいという意見もありえよう。しかし、両国の中央銀行も、実際には、銀行監督官あての民間金融機関の報告書を直接受け取って監督官に回付したり、監督官の状況判断に重大な注意を払っているという。わが国の場合、歴史的に両機能が併存してきたという現実がある。金融政策の円滑な運営のためには、決済制度を含め信用秩序が安定していることが望ましく、両方の役割を併有できるならば、併有したほうがよい。
また、信用秩序の番人といっても、監督するだけの銀行監督官と、平時の監督と並んで緊急時に「最終の貸手」として流動性を供給できる機能をもった中央銀行とでは、番人としての効用にも差がある。市場に安易な期待感を植えつけては困るが、緊急時に支援能力があると期待、信頼される中央銀行は、平時においても民間金融機関の協力(率直な情報提供など)を受けやすいであろう。私は日本銀行が二つの番人の役割を併有する現行体制を支持したい。
この場合、民間金融機関といえば、かつては銀行が中心であり、とくに大銀行に着目してその協力を得ておけばまず十分と考えられていた。しかし、最近では、日銀と直接取引関係のない中小の預金受入機関の経営不安が金融秩序全体をおびやかしている。また、金融の自由化に伴って、銀行等の預金受入機関と証券会社、投資銀行等との間の垣根が低くなってきており、いずれの経営問題も金融秩序に影響を与える可能性は決して少なくない。さらに、金融の国際化に伴って、各国の金融機関が他国にも進出しているほか、決済制度も自動化しかつ国際的な連携を深めているので、信用秩序としては、一国の信用秩序だげでなく、全世界の金融市場の秩序を考えなくてはならない時代となっている。
通貨価値の番人としての中央銀行は、BIS等を通じて、他国の中央銀行との間で、マクロ経済情勢についての意見や情報の交換だげでなく、時としては国際収支や為替相場に関連した資金援助を行うことも必要となるが、信用秩序の番人としての中央銀行も、各種の国際協力が欠かせない。
信用秩序の番人としての国際協力の第一の側面は、銀行監督である。各国相互に乗り入れている自国や他国の金融機関、それも銀行等預金受入機関だけでなく、証券会社や投資銀行についても、共通のルールを作ったり、相互に相手国に出張するまでして監督し合わなくてはならなくなっている。また、監督の対象となっている金融取引も、デリバティブなど新しい金融技術の発達に伴って一段と複雑になっている。