なぜ高血圧症になるのかは、よく分かっていません。医学用語で本態性、特発性、原発性という病名がついているのは、原因がはっきりわかっていないという表現であり、大部分の高血圧症は原因がよくわかっていないので、本態性高血圧症と呼ばれています。本態性高血圧症が高血圧症の九五%以上を占めており、残りの五%弱は原因となる病気がはっきりしている高血圧症で、二次性高血圧症または症候性高血圧症と呼ばれています。
高血圧者の多い家系の存在は昔からよく知られています。また塩分のとりすぎ、肥満、運動不足、飲酒習慣なども血圧を上昇させやすい要因です。しかし、これらの要因がどの程度血圧の上昇に関与しているのかは明確ではなく、また一律ではありません。その意味では、高血圧症を独立の一つの病気と考えることには無理があります。その一例として、塩分を制限すると血圧の下がる人かいますが、下がらない人もいます。肥満者は一般に血圧が高いのですが、高くない人もいます。やせた人でも血圧の高い場合もあります。
したがって高血圧者の診療にあたってその人の血圧上昇にどの要因がどの程度関与しているかを判断するのは不可能です。高血圧症の発症に遺伝が関与していることは経験的にわかっています。親が血圧が高いと子供が高くなりやすいとか、脳卒中か多発している家系の人はその危険性が高い、などの報告か数多くあります。大まかな言い方をすれば、五〇%強か遺伝、残りの五〇%弱が環境要因で決まるとされています。
今から三〇年以上前に京都大学の岡本教授グループは血圧が高いラットを選択的に交配する実験を開始しました。一九六九年に十〇〇%高血圧になるラットを、一九七四年には一〇〇%脳卒中を起こすラットをつくるのに世界で初めて成功しました。この遺伝的に純系である高血圧ラットおよび脳卒中ラットの確立により、高血圧症および脳卒中の発症に遺伝子が関与していることが証明されました。この純系ラットにより、高血圧症や脳卒中を促進したり予防したりする要因を一つ一つ科学的に確認することが可能になりました。